「ナポリ−バロック都市の興亡」田之倉稔

この南イタリアの地に位置する都市が深く愛する道化師“プルチネッラ”はそもそもどこか別の土地から流れていた意匠の一つで、貧乏で子沢山、大食漢でお調子者、というところのみが固定されていてあとはその時代時代の俳優演出家次第。
映画の世界やらましてやその後のテレビの世界の住人ではなく、明らかに生身の人間の演じる演劇、それも些か庶民向けの舞台がその活躍の場所で。
食べるものさえ、ナポリっ子の変遷に合わせてパスタからピッツァと移り変わり。
今では店の看板にその姿が見られるくらい、ということになっても、彼らの心から消えたということではどうもないようです、そもそも、それほど大した特徴ないんじゃない? と思うんですが、土地のガイドさんは道をわらわら無秩序に進む住人たちを見て、ぽそりと「プルチネッラの集団だ」と口にするのだとか。


かつてヨーロッパから観光旅行客が流れ込んでくるようになった頃、口の悪さでは定評のある(そしてまた、やたらと引用されることの多いw)イギリス人などが「世界で一番美しい都市に一番愚かな人種が住んでいる」とかのたまったそうなのですが。
うん、そんなことないよ、時期が来たら働いてるよ! という擁護よりも(事実なんだろうと思います、そこを疑ってるわけではないっす)著者さんの、街に溢れるスリかっぱらいが日々観光客による街の俗化を防いでいる模様、という紹介のほうが出来がいいな、と思うのはよそ者の勝手な感慨なんでしょうか。
芸術でもなんでも、常に二流品の都市で、演劇も大衆演劇、大劇場が出来ようものならとっとと廃れる筋金入りの都市。他所から流れ込む文化もどこか歪み、取り込まれれば全く別のものに成り果てる辺り、骨の髄から“バロック”(歪んだ真珠)なんでしょうかw