「双頭の鷲(下」佐藤賢一

まあ、こういう一生涯を扱った物語の後半生が勢いが落ちる、というのはある意味で仕方のないことというか、上巻のほうが面白かったな、というのが実感ではあるのですが、でも全ての親子関係が「綺麗にまとまった」のはちょっと蛇足に感じたというか。
(お嫁さんのティファーヌと僧侶のエマニエルはもちろん別ですとも、許すとも。)
むしろその辺は、割いたページ数のわりに強烈な印象に残ったスペイン・カスティーリャの兄弟のほうがすっきりしてたような気もします、うん、美男の息子はずるいんだな。
あといくらなんでも黒太子の描写しつこすぎ、別に主要登場人物でもないのにシモの話に終始するってちょっと気持ち悪かったです、デュ・ゲクランに圧倒されて逃げ出したシーンだけだったら良かったと思うんですけどね(とにかく尿意とそれを叱られた時の思い出っつーか男根が小さいだの摘まれただの何度も何度も何度もいらん)。


結局のところ、シャルル5世はあまりにも急いでフランスを改造しすぎ。
破天荒な戦の天才であるデュ・ゲクランがそれを助けはしたものの、やっぱりどこか行き過ぎたというか、この後の歴史の揺り戻しがあった、というところに素直に通じる流れだったのは個人的に良かったです、うん、この人、フランス関係で何本も書いてるし。
世間的には“税金の父”とか賢明王(ル・サージュ)とも呼ばれているのですが、この時代に直接成った、ということがそれほどないので、日本人的にはちょっとわかりにくいような気もするのですよね。
でも、次の時代の基盤そのものを作った、国というものの意識を作り出し、それを助けたのが将軍にしろ官僚にしろ、中流地方貴族だった、というのなら確かに開明君主。
どんな個性も、時代の中の一つの駒、というほうがむしろ面白いのかもしれないな。