「騎馬民族の心−モンゴルの草原から」鯉渕信一

なんでまた、あそこまで微妙な政治状況の中からモンゴル国だけが独立を果たしたのか、ということがわりと本の最初のほうに語られていたので、そのことに触れられるのかな? と思っていたのですがその辺は放置だった模様w
基本的に中国、というより定住民に侮蔑的な意識を持つのは(馬鹿にする、という態度ではなく、定住するくらいなら彷徨うほうがマシだ、という当人たちの身の振り方に現れているのですが)、多分ですが歴史的な引っ掛かりがあるからじゃないかなぁ。
遊牧民が放牧予定にしてる土地に無計画に耕作地を作り、その後放棄して土地を駄目にし、その上で遊牧の民を「無責任な存在」と呼んでいたのでは釈然としないものはあるでしょうよそりゃ。要するに、違うルールの中に生きているということを理解しようとしないというだけのことで、それはまあ、どの国にもどの民族にもありうる感情にすぎませんが。


この本では気高い気質の馬を尊び、各種家畜を飼い全ての肉を喰らい、乳を搾り自分で加工し、それを惜しげなく誰にでも振る舞い、時期ごとに放牧地を彷徨い、華美なものにもかさばる文明にもまるで興味を示さない誇り高き遊牧民としてのモンゴル族の姿が描かれていて、国の根幹に遊牧民の存在がある、という国はもう他にないのだ、ということを語られます(余所で遊牧民が実際の減少よりも低い位置、定住のチャンスを与えられたのに“まとも”に生きる能力に乏しい庇護される存在、と見做されるのも珍しくありません)。
感覚や言語のすみずみまで確かに独特ですわな、現金収入の手段に乏しく、物も持ってませんしそもそも物欲そのものがなさそうですよね。大量の家畜を飼ってけして土地を傷めず、深い知恵と伝承とともに暮らすってことのどこがそんなにいけないのかなぁ。
けして楽ではなさそうですが、全てを自分らで賄う生活は生き甲斐があるでしょうね。