「地図のない街」風間一輝

ハードボイルドに分類するのが多分近いんだろうなー、と漠然とは思うものの、それに相応しかったのはせいぜい最後のページ付近の数行といったところで、それもなんだか、全くそこらのチンピラとは格が違う人間が、怒りに駈られて一瞬だけ地上に降りてそのまま立ち去ってしまったという程度の風情しかない。
特にその後が語られていなかったが、まあ、あとを追われるようなこともないだろう、なんというか、どう見ても手を出してはいけない領域だよなあれは。


とある人間がチンピラに絡まれて100万を越えるボーナスを奪われ、その報復に走った段階から全てと決別してしまい、結局のところ行き着いたのは東京の「山谷」と呼ばれる地域、正直私にはそれが実在している土地(地図には載っていないらしい)なのかどうかもよくわからないが、関西のものは聞いたことがあるのに、あるのかないのか、というレベルですら全く見当が付かない辺り、案外とそんなものなのかもしれない。
都電と聞いてむしろびっくりした、そこまでなら割合と近い現実なので。
ただ、いわゆるドヤ街は一見人の出入りが激しいように見えるが、それはごく表層的な話でしかなく、その地にい続けるものはむしろその外に出られないまま十年の時を過ごす、と聞くとなんとなくそれは納得がいったし。
普段本名を隠していても偽名が当たり前でも案外と皆、自分の名を懐に隠しているのだ、というのもよくわかった、むしろ近い感情を普段から持っているような気がする。
本の途中から話が断酒に至り、それを紛らわすように1週間で3件と続いた変死が語られるのだが、ラストでそれで一人が死んで、たかがそんなことで、となんだか思ってしまった、多分作中の二人もそんな気分だったろう、遠い話のはずなんだけれど面白かった。