「スリー・アゲーツ−三つの瑪瑙」五條瑛

個人的に「日本と北朝鮮のそれぞれの家族の間で揺れる男」という部分をなんとなくさらっと読み流してしまってから気付いたのだが(相手の信頼を勝ち得、ほとんど目的の部分を告げず、それぞれの駒にほとんど負担がないような事態の進め方は実に感心しました)(が、よく考えたらそうして利用した相手を本気で心配してる辺りでちょっと厳しいか)、よく考えたら工作の片手間と手持ち程度の贋金のみで国家元首の暗殺レベルのことを仕掛けられる辺り、、、この“チョン”ってものすごい人材だったような気が。
もうちょっとその腕が生かせるような国にいたら、絶対伝説を残していたと思います。
こんな人材を埋もれさせた上に幹部の愛人押し付けて、さらにそこから生まれた美貌の娘まで愛人として取り上げようとするなんて、いろいろ駄目なんじゃなかろうか。
え、うん、多分そういう問題ではないとは思うんですが、単に取り引きに使うために立てられた計画であのレベルってなんですか真面目に。
最初はあれだと思ってたんですよね、国の命令で動いているのかと思っていたんですが、全体的な計画のルーズさから見て違うと思うんだよね(サポートとかほとんどっていうか全く入ってないんですよね、もちろんそういうのがいると勝手に途中で止めるってのもやりにくそうではありますが)、しかし、あの変幻自在でどこか一箇所が破綻したところで悪戯程度にしか思われない組み立てすごくない?


この話って結局、押し付けられた元愛人とも、潜入して自分が工作の対象にしなくてはならないような国で出会って利用することになった「妻」とも真っ当で誠実な家庭を作り上げていたってことが一番重要なファクターなんじゃないのかなぁ、となんとなく。
どうしても情を捨てられない葉山と彼だけが目的を達するって結末、私は好きだなぁ。