「軍隊を誘致せよ-陸海軍と都市形成」歴史文化ライブラリー370、松下孝昭

そういえば前に別の陸軍の本で、各県に約一つの歩兵師団があって、という説明を読んだことがあったのだけれども、要は徴兵令が始まったのち兵士を取られた家族が、あんまり遠いところに行ってしまうと困る、と誘致したんだよね、と聞いてしまうと「軍隊の誘致」から感じ取る強引なニュアンスもかなり一変するのではないかと思うのですが。
その後もそもそも市街地に一定の購買力を持つ集団が欲しいのだとか。
もともとある程度のインフラが整った土地に誘致されるものの、逆に陸軍が資金を出して水道を作ったケースすら皆無でもなく、そうでなくても地方予算が付きやすくなったり、中には鉄道すらあとから作られたことがあったとなると、まあ責めるのは酷だよなぁ。
そして問題点に数えられてもいい遊郭(というのも正確な呼び名でもないですが)の設置も、それがないと私娼が増えて周辺の環境や、性病の蔓延が、という観点で語られていて、もともとそこまで性的に厳格でもなかった前時代の感覚を残っているね、と思いつつ読んでいたが、少なくとも周辺住民との軋轢のような問題は少ないんじゃないのかなこれ。
なにしろ、下手すると客がご近所さんの息子さんや旦那だしなぁ…。

基本的にはどの土地でどのようなことが、という括りで語られているところが多く、時折戦争の勃発でまとまって事情が変化するようなことも、この本の視点はあくまでも軍隊の中にはあまりなくて都市の側にあり、正直なところ、そちらからの見方をしているとかつての陸軍の態度の特に横暴というわけでもない面が目立っていたようにも思うなぁ。
(いや、軍内部や鉄道関係、政治関係の本だと良いところがあまりないしね。)
多分案外とそれはこの本を書かれた著者さんも共有してた感慨なんじゃないかな、地主の地上げの心配などの話や、土地の要求を突っぱねた件も、そりゃ当然って範囲だしね。