「儲けすぎた男-小説・安田善次郎」渡辺房男

儲けすぎた男 小説・安田善次郎 (文春文庫)

儲けすぎた男 小説・安田善次郎 (文春文庫)

 

 

ちょっとだけ描写がこなれてないというか、少し読みにくいかな、と感じる部分があったんですが、金の流通などの流れが語られ始めた辺りからは明らかにこの書き方のほうがわかりやすくていいですね、むしろ、歴史を小説スタイルで語るってのがこれだけ成功してる本のほうが少ないんじゃないかなぁ。
金貨の金の含有量が減ったことでむしろ「持ち歩きやすい」と喜ばれ。
しかし紙の札が出てきた時にはそれはありえないと拒絶され、そこで安田善次郎が「金の含有量が少なくても同じ価値で流通する、要するにもともと約束でしかないんだ」と語るっていうのは、すごく全体の流れを掴むのに良かったです。
三井の大番頭である三野村との付き合いが中盤くらいからぽちぽちと出てくるんですが、三野村が紙の金が流通し始める時に比較的スムーズにそれが受け入れられると思っていたらしいという描写と、庶民に近い安田善次郎がどうだろう、庶民は金への執着が捨てきれないのではないか、と思っていたという対比もなんだかわかる部分がないでもないですね。
(あくまで小説だし、ここの付き合いもあったかないかは多分記録などで残ってるわけでもないんでしょうけども、こういう違いはあってもいいよなぁ、すごく納得。)

ただ、この本そのものが銀行家として非常に広範な融資をしたという安田財閥の話ではなく、円が曲りなりにも安定し、銀行がようやっと軌道に乗るという辺りまででページが終わってしまい、後半生が駆け足になっていた部分はちょっと残念ですかも。
とはいえ、そっちの本は他にもたくさんありそうだし、そういう伝記などを念頭に置いて書かれた本でもあるようなので他の本に期待してみようかな。
何冊か同じ時代を近いテーマで書いてるようですが、庶民視点が最初で良かったかも。