「応仁の乱と日野富子-将軍の妻として、母として」小林千草

いささか正直なところを言えばこの著者さんの日野富子像はさすがに現代人に寄せられすぎているのではないか、とは思わないでもなかったものの、この当時の前後の出来事を思い返してしまうとなんとも言えない(気味が悪いほど理由も判然とせず、人が死ぬし殺される)。うーん、後土御門天皇との不倫の噂や、一条兼良からのラブレターめいた書簡などはあっても、なんだろう、この人は一定の評価を得ていたんじゃないかなぁ。
(なんというか、揶揄によって地位が揺らいだ形跡がかけらもないんだよね。)

で、そう捉えてからこの本を捉え直すと、全てではないにしろ、完璧ではないにしろ日野富子はどちらかというと秩序に属する存在であったという気もするし。
その上でこの人の同情心の寄せ方がわからないかというとそんなこともないな。
私はどちらかというと応仁の乱そのものが読みたくて「ついこの間むしろ焼き討ちした側ではないか」と著者さんに言われていた京の民衆にとっての贔屓の対象であるところの畠山長政のことが知りたかったんですが。
まあ、当時、彼が京都の民衆にやたらと持て囃されていたことがわかっただけでも結構な収穫だったかな、なんというか、当時の噂話って大抵の研究者の人って教えてくれないんだよね、実際にはその方たちはそれに類すること見てると思うんだけどね。
日野富子に関してもそんな感じ、私はこの著者さんのいわゆる女性らしいと言われるのだろう彼女への傾倒や同情心に共感することはないものの、この人は歌会の様子全てをきちんと端役に至るまで書ききってくれているので、私自身で判断する材料を与えて貰っているんですよね、基本的に全てにおいてそんな感じ、妥当で的確に略されていない。
こういう本が新書にあるというのはちょっと意外ですが、いいんじゃないのかな。