「謎とき平清盛」本郷和人

正直なところ五味さん周辺の研究者を見ているとあくまでも一つの説は「特定の部位を説明するもの」であって、その説にいかに合致するのかというような捉え方をするものではないという感覚だったので久々に権門体制論(てか、さすがに古くないこれ?)に鋭く反論するというのを見て面食らってしまった部分はあったんですが。
いや、最終的には棚上げにしていたんですけどね、一通り論じて自説を述べて棚上げ、というのは信用出来る態度なんですが。
正直こういう気質が素人受けするのかなー、という気も。
ぶっちゃけ、奥さんのすぱっすぱっとした意見だと、学徒はともかく、あんまり面白みというか興奮はしないだろうしね。
どっちかというと平清盛白河法皇落胤だろうがそうでなかろうが、特にドラマではどっち選択してもいいんじゃないかな。というのは好感が持てたんですが。
白河法皇の愛人を下げ渡されたのは史実と見做してよく。
さらに当時からその噂があったんだよね、という話にも触れておいて欲しかったかなぁ、結論はどっちでもいいんですけどね。別に興味ないし。
 
あと逆に高い評価が出来るのは清盛や同時代の源頼朝よりも二世代だっけ? 権力基盤を持ち始める段階から推論を含めて説明していたところで、この情報は使えないんですよねぇ、というかドラマに出てこないんですよねぇ、という辺り。
いやいや面白かったです、というか外れてても誰が責められたものでもない。
それと最近語られている「源平」合戦ではない、源氏と平家の争いとなったのは終盤にすぎないという意見も、これは今までで一番わかりやすくて良かったです。

「平城京のごみ図鑑-最新研究でみえてくる奈良時代の暮らし」文化財研究所奈良文化財研究所

前に一度この研究所の名前を見たことがあって、それが奈良の寺についての本(寺は現存しているため、その境内の痕跡や歴史記録などから探っていくようなスタイル)、多分そもそも奈良そのものを扱ってる研究所なんですかね、やっぱり。
一応本の中でも触れてはあったものの、研究機関そのものをそんなに知っているわけではないのでちょっと自信がない。
そういや、『遺跡を学ぶ』で奈良関係のってあったっけ、都市部のはなかった気が。
 
大雑把にトイレの位置をその寄生虫の有無で測定したり(寄生虫の卵のみが残ることがあるようです)、木簡から剥がした木片をつなぎ合わせたり、裏紙として使われていたかつての書類や手紙などを探す…のはこれより時代あとだっけか混ざってる?
だいたいの当時の食生活を検証していったり。
現在唯一個人の住居が特定出来たという、長屋王の家に言及されていたり。
正直こう、平安京ほどではないものの平城京の土地そのものも都ではなくなってもわりと使われていたはずだしなぁ、どうしても中心部からズレてることもあるのかも。
逆にずっとなんらかの史跡として残されていて、そこからさらになんていうケースもあるんだろうけどね。
そういやこの本の中では寺院関係は出てこなかったんですが、さすがに現存だからそこまでは残ってないか。さすがにだいぶ放置されてる土地だろうしなぁ、ごみ出てくるの。
子ども向けの本とはいえわりと面白く読めたものの、どちらかというとこの辺の情報と現存の研究との絡みみたいなものを見たかったですかも。
とはいえ庶民の歴史だと、下手すると最初の歴史資料がこの辺てこともありうるか。

『日本の美術43 浄土教画』岡崎譲治・編

この本を読んだ時点で浄土信仰というような仏教の一群があるという認識だったので(浄土宗や浄土真宗などの鎌倉新仏教の辺り)、その辺の仏教絵画が出てくるのかな、と思っていまして、浄土真宗などだと子弟の関係などを絵姿にして大事に保存しているなんて話を聞いたことがあったので他の宗派にもあるのかもしれない、という程度の認識で本を手に取ってみたんですが全く違いました。
というより、自信はないんですけども、多分鎌倉まで時代到達していない…というか、少なくとも浄土宗系の話はほとんど出てこなかったんじゃないかな。
基本的には浄土が存在し、そこに到達するための信仰のスタイルということが語られていたんですが、えーと、要するに私の認識していた「浄土宗」に至る系譜は浄土に至るための手段として念仏を主体とする一群だった、ということになりそうです。
うん、空也念仏宗教の最初期の一人くらいまでは辿り付いていたんですが、だいぶ正直なところまだまだでした。
それとあと、浄土信仰の中に奈良の春日大社の地に浄土が存在し(春日山の地下という認識でいいのかな)、その「春日信仰」の形を示すための絵図というものもあったのでだいぶ驚きました、あのいや、一応春日大社は隣接する興福寺との関係でそれなりに資料を読んできたつもりだったんですが、だいぶ基本的な情報なような…初耳なのはさすがに辛い。
ただ、考えてみるとそれらしいことには触れていたような気もしないでもないんですよね、春日大権現の権限がどうのとか…やっぱりややこしいな神社。
 
他にも浄土に至るために迎えに来る菩薩その他の集団が描かれた画なども大量に存在していたんですが、年々到達の速さが求められたとか…なんとも世知辛い話だよなぁ。

「図説 地図とあらすじでわかる! 最澄と比叡山」池田宗讓・監修

ところで私、最澄さんと空海さんの時期をあんまりきちんと把握してなかったんですが、平安京を作った桓武天皇と同時代、ということでわかりました、むしろ比叡山延暦寺って平安京と平行して作っていた認識のほうが無難だし、空海さんに預けられた東寺は平安京よりも前に作られていてその後管理下になったんだな!
(東寺と西寺のみが平安京の中にあり、平安京の北に位置するのが比叡山。)
今まであんまり政治とか地理と結び付けて考えてなかったんですが、そのほうが絶対わかりやすいですね…誰かが最初からこれで解説しておいて欲しかった。
 
このシリーズは前からたまに気になっていた【青春新書】の中の宗教のシリーズなんですが、地図とあらすじでわかる、ではない本を手に取ってたんじゃなかったかなー、ちょっと自信ないけど、で、【歴史新書】とどっちがいいかなと思ってたんですがこれはなかなかどっちも健闘していて多分両方読む価値ありそうだなぁ。
微妙に得意分野が別れてそうなのでちょっといろいろ今後が楽しみ。
最澄さんと言えばまあさすがに空海さんとの比較は外せないしここは何度も見ているのですが、戒壇院やらその他の段階があれやこれやと語られていたのが嬉しい。
これを読んだだけではちょっとわからなかったんですが、今後この辺を意識しながら探すことも出来そうだし、受戒(戒壇院)に関しては新設させて貰えた、ということの政治的な意味もある程度わかりやすくなってるし。
この戒壇院を通して考えると円仁(延暦寺)と円珍三井寺)との分離がわりとわかりやすいですね、三井寺の人たちは延暦寺戒壇院使えないんだなぁ…それはまあ微妙な関係にもなるし三井寺はむしろ別のところと関係が出来るし。うん、わかりやすい。

「寺社勢力-もう一つの中世社会」黒田俊雄

ここ最近かなりごてごて立て込んで仏教関係の本を読んでいたので若干本ごとで触れていた触れていないの記憶が怪しくなっている部分があるにはあるんですが、この本は中世史やるんなら一度は読んでおいて損がないんじゃないかしら。
逆に宗教史という意味だと必ずしも必須でもないような気もします、全体宗教史を読むなら読んでおいたほうが早いんじゃないかとも思うけど。
すごく大雑把に言うと大寺院とそれと連動した神社がどのような行動を起こし、そこからどのような新宗派が生まれ、どのように社会に影響を及ぼしていったのか、というあくまで宗教を外部から見た社会を語った本なんだよね。
同じ著者さんの本を見ていたら通史の1冊を担当していたのも正直納得。
本来「古びてない」という言及になるとあんまりジャンルが進んでいないというニュアンスになってしまって良し悪しなものの、たまにそういう意味ではなく基礎研究としてこれはこれでどんなに時間が経っても読む意義があるって本もあるよね。
 
で、どっちかというと個人的には鎌倉初期にその源流があると語られている(初代とされる法然だとそうでもないものの、その弟子筋である親鸞などだと正直特に)こともある浄土信仰の源泉が鎌倉時代の中期くらいの空也だというのが収穫。
いや、そのくらい調べればすぐにわかるだろうって思うんですけども、人名がわかってれば出てくるけど、浄土信仰という単位からだと調べられないんだよね…。
(理論の大成者という意味で法然が最重要視されるところはわかるにはわかる。)
もちろんそれ以外にも神社がどのように大寺院と連動していたかや、空海最澄などが宗教界にどのように影響を及ぼしたのかなども、というか内容は全部面白かったよな。

「黴」徳田秋声

友人が読んでいたのでちょっと興味を覚えて、【青空文庫】にも収録があったのかな? まあ、あれはあんまり長いものを読むには向いていないので岩波文庫版で借りてきまして、なんかこう、私小説とも別の独特の癖があるなー、という雑感。
要するに仮名とはなっているものの著者当人の結婚にまつわる話のようなんですが、その当の女性がお手伝いの女性の姪だか孫だかなのでつまるところ「身分違い」になるらしく(ただ、彼女自身は父親が身を持ち崩さなければって悔しがっていたんだけどね)、妊娠していても結婚するのかどうかがわからない上。
冒頭のところで一旦入籍について触れられていたせいなのか、その下りが省かれていたらしく、いつ入籍したのかは結局推測する嵌めになりましたよ…皆これわからなかったよね。
この辺が判明していて作品が面白くなることはなさそうなのでもうざっくり書いてしまうんだけどね、というか第一子が生まれた時点でいいんだよね?! それとも第二子の時点? みたいなえらい余計な気を回したよ、なんかフォローしといて下さいせめて解説さん。
 
で、挙げ句の果てに周囲の友人からは玄人の女性と勘違いされていたんだよなこれ、なんでそんなことになったのかなと思ったんだけども、近所でもそう思われていたらしいしまあ間違いはないよなぁ。
しかし中身はかなりぼけっとしていて、主人公が騙されそうで心配! 身分違いでさえなければ!! とか言ってるので、愛されてるじゃないか…気付いてあげてよ。
そして主人公は、どうもいまいちお互い愛がないが気がするとか、よくわからんことを言ってました、そういう異様に若い部分はどっちでもいいんだよ。
そして最終的に、よくこんな古い話こんな正確に覚えてんな…、以外の感想がない。

『権力の館を考える '16』#10「関西の館(1 大阪城天守閣と旧第四師団司令部庁舎」

この講義で語られていたのはえーと、一時東京を抜くほどの人口になった大阪に公園を作りたい、が土地がない、大阪城がいいんじゃね? いや待て、あれを持ってるのは陸軍だから無理なんじゃないのか、ということになりまして。
まず陸軍に、おたくの宿舎を建て替えます。市民から寄付を募ってと申し出。
ただ、市民の名目がそれだと寄付が集まりそうにないので大阪の天守閣の再建ってことでどうでしょう! みたいな話になりまして。
で、この話が確か1930年第で、どうもその前年の万博? だったっけ、まあパビリオンの類で2階建てのなんちゃって天守閣が作られていたそうです、で、それを見たら本物が欲しいって発想にすでになっていたんだとか。
まあ実際に宿舎はちゃんと建て替えられたみたいなので騙されてはいないものの、公園として開放するって話がどこでされたんだろう、寄付されたんだから自然な流れではあるし、そもそも敷地全部使ってたわけでもなさそうなんですけどね。
 
この話見てると、正直当時の陸軍が後世のイメージのように威張ってるわけでもなさそうじゃない? みたいな発想になるのもわかるんだよね。
今ではカソリックの女子校になっている建物があるとか(確かに階段の使い方は学校と似てたし、転用は可能そう、というかもともと学校だったのかな?)、九段会館はかつてなんか天守閣っぽい建物が洋式の建築の上に乗っていたのでそれを持ってして日本の軍国主義の表れだ! と言われてたらしいんですが、でもそこ、退役軍人のための建物だったのでどうかなぁ、みたいなことも言われてました。
そもそも帝冠様式(そういう名前付いてます)って最初にやったの渋沢さんだしな?