「殺人者の顔」クルト・ヴァランダー・シリーズ1、ヘニング・マンケル

殺人者の顔 (創元推理文庫) スウェーデンというのは、現在(2010年)実際にどうなっているのかまではわからないんですが、どうもほぼ無条件で移民を受け入れている唯一の国、ということになるようで、人口比が抱えられないほどになっているとか、実際難民認定には到底届かないような人物も混ざっているとか、犯罪の温床になっているとか、そんな非難も受けてはいるようなのですけれども。
(けど、難民認定ってのも実際完璧ではないからなぁ、ある程度は仕方ない部分もあるようにも思うのですが。)


この老刑事クルト・ヴァランダー・シリーズというのは、要するにそんな外的要因によって社会変革を強いられてしまったスウェーデンの社会の歪みを書くことになるのかなぁ、と思うのですが、かつて日本で翻訳されたというマルティン・ベック・シリーズってのもそういえば端的に社会派だと言われていたんでしたっけ。
この本では田舎の老夫婦が残忍に殺され、まずいことに夫人は発見された瞬間に「外国の」と言い残して息絶えており、対外移民感情がけしてよろしくない状況の中では警察は正直なところ伏せておきたくもあり、それは一種の欺瞞でもあるわけですが。
(実際に移民絡みの犯罪ってのもあるわけですし。)
ただ、ソマリア(アフリカの悲劇のあった地)の9人の子どもを抱えた人が非難を受けて、見た目だけがよく似た青年らがのうのうと逃げ延びるって現状の前で、少しでもいいからそれを避けたいスウェーデン警察を責められるわけもない。
結局、刑事たちが釈然とした思いを抱えたまま取り掛かり、同じ思いのまま事件収束したのと同じ気持ちでしょうか。なんでこんなことになってしまうんだろう。