「エッジウェア卿の死」エルキュール・ポアロ7、アガサ・クリスティ


でもなんだかんだと、クリスティ作品のわりと個性の強い人物たちの中でもかなり強烈な印象を放っているというか、その言い草のいくつかはどうかと思うこともやっぱりあるんですけれど、それでも魅力的って言ってもいいんじゃないかなぁ。
ジェーン・ウィルスキンて。
ポアロ氏でも主役として彼女のために作られた舞台でならば充分に名優として存在しうると認める、そして確かに類稀な美しさを持った女優さん。ただ私は案外、彼女の一番の魅力はそのすさまじい利己心じゃないかって気もしないでもないんだよな。
女じゃなきゃまずこんな性格にならないし、美しさも不可欠。
そして、自分自身に関してや、自分を女として美しく見せること以外、男を利用すること以外の一切に無知なんですが、どっちかというと単に彼女に必要なかっただけじゃないのかな。


同じ作品にも理知的な女たちは幾人も出てきて、彼女たちはもっと利口に、もうちょっと確実に、争いを引き起こしたりせずに確実に物を手に入れたりもするんけどね。
けれど私はジェーン・ウィルスキンの、ある意味で不器用で身勝手で、全く人の話を聞かない、他人が自分のために存在していると心の底から信じている傲慢な振る舞いばかり記憶に残しています。
なんかやっぱり、やっぱりどっか嫌いじゃないんだよな、彼女。なんでだろ。
ある日ポアロ氏が探偵として離婚調停を頼まれた女優の夫がその途上で殺され、女優に疑いが掛かる、けれど彼女はその時間に別のパーティーで目撃されている。
彼女の犯行なのかどうか、というただひたすらそれだけの話かなぁ、これは。