「「五つの鐘と貝殻骨」亭の奇縁」警視リチャード・ジュリー8、マーサ・グライムズ

どちらかというとメルローズのほうが気になる人のほうが多いのではないかと思うのだけれども(というか、こっちのがモテそうな気がする、貴族過ぎるのが駄目なのか、爵位捨てても歩く高貴だよな、本気で)、作中では相変わらずジュリー警視が無双にモテる。
だがしかし、どんな人物の話も微笑んで聞いているところを見ると、案外そんなものなのだろうか、女性作家さんとか村の派手な未亡人とかね。


相変わらずごちゃっついた構成で、たまにどういう基準だかキャラクタが増える、彼らは概ね牧歌的で騒がしくて事件の悲劇性の中で明らかに不協和音を奏でているし、事件とは無縁の人物の視点の描写というのもなんだか妙に多い。
全て相まってなんとも言えない雰囲気で、読みやすいとは口が裂けても言わないが、読み終わった時には大抵納得している。個人的に苦労の甲斐は十分にある。
「彼女」が一体「どちら」であるのかということを本の後半になると延々と考えさせられるのだが、入れ替わりが実は事件よりも前から発生しているため(その人たちが騙されるということは縁が浅いので十分ありえるんだろう)、どこを基準にしていいのかがどうしてもわからない、ただ一人区別が付きそうな人物は、だが口を開きそうな気がしない。
けどなんだか、それ自体が悲しい話なんじゃないかなぁ。
シリーズ1作目のメルローズの村の隣接する屋敷で事件の片割れが起こったので、なんだか懐かしい面々と、女性作家だの俗物の本屋だの未亡人だの増えていた。
いつものごとく優しいジュリー警視が子どもを拾って来て、前からいる面子の中で賑やかしく過ごしている、彼の姉は美しくて華やかで邪悪だったのかもしれないが、なんというか孤独で誰とも関わらないよく似た女と大差なかったんじゃなかろうか。