「貧困の精神病理:ペルー社会とマチスタ」大平健

まあ、一言で言ってしまえば“マチスタ”というのは精神医学の用語でもなんでもなく、土地の男たちが日々心掛け、女たちが諦めとともに許容し、男の子どもたちが恐れながら「憧れる」将来像ではあるようなのですが(一言じゃねぇな)。
日本に置き換えるとものすごくさっくり「底辺」じゃないのかしら。
一応働いてはいるものの家庭に一銭の生活費も入れず、入れないにも関わらず女が働くのは許せない、自分のプライドが傷付く、と怒り。仲間たちには酒を奢り、自分の身なりには女のように気を使い、やたら若い愛人を囲うのが常、という生活で。
しかし彼らは南米の貧困層の主流として、どう見ても明らかに多数派。
生活的には彼らの上にいるはずの中流下層(学歴派と商人派に分離)と中流上層に至っても、マチスタとの共通点が見出せないことにより不安を抱く、という大胆っちゃあ大概大胆すぎる結論に至っておられるとは思うんですが、非常に冷静、論理的で隙がない。
(上流の人間になるといつでも海外に逃げ出せるので不安はないそうな。)
ちなみにこの著者さん、ペルーの貧民街で精神科医を商いながら論文を書き。
そのうち、面白い日本人がいるぞ、とあちこちで公演をすることにもなったそうなんですが、多分ですがかなり好評だったんじゃないでしょうか、いやだって、日本政府がペルー政府に病院を作りますよ、と申し出た時に「精神医療センターを」というのは、ねぇ? 要はこの太平さんへの評価なんじゃないですかね(心の問題はフツー他国人は避けるって)。


ちなみに国際関係にマチスタの考え方を適用し、ブラジルは恐れられるが周辺国から頼りにされ、中米まで含めるとメキシコ、アメリカ大陸全体だとアメリカが、という説明をなさっていた時は、意外と国際意識って生活と無縁じゃないのかな、としみじみと。