「中世イタリア商人の世界−ルネサンス前夜の年代記」清水広一郎

中世イタリア商人、と銘打たれてはいますが実際に本の中で扱われていたのはフィレンツェの商人で『新年代記』(Wiki先生の表記に合わせます)の著者であるジョバンニ・ヴィッラーニについてで、ちょうど『神曲』を書いたダンテのだいたい一世代あとの人物。
ダンテが当時フィレンツェを含めた北イタリアの地の支配権を争っていた皇帝派(神聖ローマ皇帝)であり、ヴィッラーニが教皇派、という違いはあったものの。
その争いの後に起こった各地の内戦や戦争に絡んだ融資の焦げ付きによる大商人たちの破産や、都市防衛のために呼び入れた武人とフィレンツェの既存権力との争いなどを経て、先に敗者である皇帝派のダンテに対しての悪意よりもむしろ、自分たちには直接責任のない争いに巻き込まれて失脚した相手への共感のほうが強かったらしく、年代記の中にもダンテの作品の影響などが伺える、ということなんですが。
まあ正直、イタリア商人自体も結構ろくでもないことしてるっちゃしてますなw
破産自体は仕方ないこととはいえ、後に破産の瞬間に送金した資産が消えてしまった後家さんに対し「名前の表記が一文字違うので別人だ!」と言い張っていた辺りとか、ある意味で現代アメリカの弁護士じゃあるまいし、と若干不思議な気分に。
(当時の関係者も正直辟易したみたいですね、農民の罵倒まで記録に残してる辺り。)


少し後世の人間にとっては実感しにくかったみたいですが、このヴィッラーニ氏、若い頃にフランスと現在のベルギーの地に跨るフランドルの内戦を直接目の当たりにした(その数年後から現地の契約資料に名前を残しているので証拠あり)とか活動的。
そもそもイタリア各地の商人たちは「人に頼むと金掛かる」という理由で子どもに教育を付け、結果年代記が商人の中から生まれたよ、ということなので、ある意味素晴らしいw