「ローマ教皇検死録−ヴァティカンをめぐる医学史」小長谷正明

ローマ教皇というのはとりあえず、カソリックの首長であって相対的に見てキリスト教徒の中で一番偉い人で(プロテスタント東方正教会は“代表”はしてなくても、まあ、キリスト教会の中での最高位とは言ってもいいかなと)、検死というのは遺体の表面観察に寄ってその死因を特定する、というもので、身体を開く解剖とはまた別物。
ある意味、ローマ教皇の地位にある人物の身体には触れることが出来ない、とか、若干死因に疑問があっても逆にそれが暴かれることがない、とか、そもそも、歴代の教皇が少なくとも正確な死亡年月日、年齢、来歴(教皇になって以降の正確な生活)、表面的にとはいえ死亡原因が残されている、ともなると医学者にとっても歴史研究家にとっても生唾を飲むような資料で、せめて見せて! ということなのかなー、ということを本を読みながらなんとなく考えてしまったんですが、正直あれですね、相手が最高位の宗教指導者じゃなくてもなんか失礼な話でした、すみませんです。
しかしこう、文面からなにか滲み出るものがあるようなないような。
歴代の教皇を追いながら、むしろヨーロッパの風土を語るという側面も多々。


大雑把にローマ教皇といってもまあ、各国が送り込んできた政治代弁者であった時期もあり、特に貞節がどうの、ということが問題視されなかった時期もあり、いくらなんでもメディチ家は違うだろうなんか人間として怖いよアンタら?! という例もあり。
その辺の行状については淡々と進める辺り、内容自体が医学を前提にしてなくてもやはりお医者さんだなー、と思ったんですが、ダンテの『神曲』で「歴代法王で天国行けたのは一人だけ!」というのを紹介していた辺り、感じるものはあったんでしょうか。
一風変わった角度から見た、読みやすい入門書といったところですかと。