「略奪の海 カリブ−もうひとつのラテン・アメリカ史」増田義郎

この辺の歴史に全く詳しくなければ特に違和感はないかな、と思うんですが、スペイン(本の中では一貫して“エスパニャ”)の対イングランド(この時代だと正確には)のアルマダ海戦って要するにイングランド本土への侵略目的だった、という記述が皆無とか。
プロテスタントへの改宗が理由になってましたが、それ以前からだよねぇ?)
スペイン支配下の南米の地で、どうしてあれほど奴隷が必要とされたのかという理由の一つ、搾取と伝染病によってもとの現地住人がほとんど壊滅状態に近くなっていた場所も少なくなかった、というのも一言くらいあってもいいような気もしますし。
騙まし討ちみたいにして植民地連れていくのもどの国でもやってるよなぁ。
さすがに名の知れた奴隷貿易をイギリスのみの行為であるかのように書くのは無理だったみたいなんですが、他の国は全てほぼ触れずに、イングランド由来の資料のみ。
ちなみに上で書いている「史実」もこの著者さんの他の本を読めばきちんと載っていますのでご心配なく、この本では徹底した姿勢を貫くことにされたようなんですが。


正直ローマ教皇が“認めた”というスペイン−ポルトガル間の世界二分割の条約って非常に印象が悪いんですが、基本的に著者さんはこれ遵守の立場から語られ、守らないイギリス側の姿勢を一貫して非難。先にカリブ地域からの海賊行為、後に商業でスペインが得るはずだった利益を徐々に奪ったイギリスの悪を暴く、という構成になっているのですが。
(なので批判されるのが常にイギリスだけなんでしょうね、他の国も密輸船や私掠船は盛んなもののスペイン「に」打撃を与えているわけではないですし。)
スペインだけが悪いんじゃない、という書き方なら納得もいったんですが(事実だし)、正直、スペイン贔屓のあまり現地への同情の視点に欠けた本だなぁ、という印象が。