「無文字社会の歴史−西アフリカ・モシ族の事例を中心に」川田順造

私の読んだのは“同時代ライブラリー”版で、まあ、これ以前にもこれ以降にも版型を幾度か変えているのですが、多分、誰もがタイトルから薄ぼんやり想像する内容より、はるかに面白いんじゃないのかなぁ。
特に面白かったのが現地の人にも認めて貰った、と喜んでいた、とある言葉の起源が近隣の別の部族からのものではないのかな(確か武器の一種でしたっけ)、という話や、多分これは神話そのものがつながっているのではないか、と予測していた「変わり者の少女と流れ者の男との結婚の話」(内容が少しずつ違うもののどうも構造が似た話がぽちぽち)からの一連の流れ。
これは受け入れがたかったみたいだけど、と前置いていた、とある「偉大な王」がもしかしたら固有名詞ではなく、王位そのもののことなんじゃないかなぁ、ということなど。
この本を書いておられる当人が完全にフィールド・ワークを旨とする研究者で。
正直、この本の中に挙げられていた歴代王の聞き取りリストなども(ほとんど欧米人が作ったものですね)、これは使う、これはこう使う、これは植民地時代の恣意にまみれてるって言われてるけど突合せの役には立つんじゃない? などと非常に実践的。


そもそも、「文字のない世界」は異世界みたいに感じているかもしれないけれど。
少し遡れば識字率が低い世界が(今も)ざらで、さて、そういう社会での自分の周辺、自分の地域の歴史、為政者の知識などを比べたらむしろモシ族のが断然上だよなー、という結論にもなるもので(なにしろ覚えておかないと他に方法がないしね)。
そうなるともう、歴史史料(歴史書や公式文書を主に指すわけです)によらない歴史の探索ということとなんら変わらない、いや、実に面白かったです。