「黒死病−ペストの中世史」ジョン・ケリー

この時代が実際、この本に扱われていたような中世(この本だと12世紀から13世紀くらいだったっけ? 英仏百年戦争が確か14世紀だよね、前にちょっと当時の状況に詳しい本読んでたらペストの話が出てきてました)の頃、果たしてどんなふうに呼ばれていたのか、どこからどこまでが同じ病気として認識されていたのか、というのはちょっと怪しいところがあり、そもそも当時のヨーロッパは周辺アラブ世界、地中海世界と比べても医療の分野ではずいぶん遅れてましたわけで。


そんな当時の状況を、限られた資料の中からユーモアたっぷりに語る、という本なのですが、正直、都市を移動するたびに最低限なれど都市の事情をじっくり語ってくれる辺り、日本人向けなのではないでしょうが、ヨーロッパ向け書物という気はしないのですが。
とりあえず、一番内容が面白かったのはシエナかなぁ。
そもそも聖母マリアの祈りに明け暮れたというこの都市は、どうもこの感染力の強い病気の接近そのものは知っていたらしいものの、なんらかの対応をした、という痕跡が当時の行政資料から伺えず、けれどまあ、結論から言うとそれでなんの変わりもなかったよとか。
アラブ圏でも流行るには流行ったけど、当時としては適切な隔離政策を取ったために完全なパニック状態には陥らずに終息したとか、騒動が起こるたびにいつものごとく「ユダヤ人が井戸に毒を」という流言が流れたり。
あまり感心しない生活を送っていたローマ教皇以下の都市(この時代にはフランスのアヴィニョンにあったのですが)に迫って来た時ばかりは、周囲のユダヤ人を保護し、ぎりぎまで逃げずに留まっていたのだとか。イギリスに病気が渡る頃にはもうイギリス人が開き直っていたのか生活変えなかったよとか、いろいろ興味深かったです。