「イカロスの飛行−内戦のギリシアを旅する」ケヴィン・アンドリュース

アイルランドの血統を持つアメリカ人の、まあ、少し多感なところはありそうなもののごく普通の青年が、なんとなく考古学に携わることになって戦時後のアテネの地に行き、幾つかの遺跡を見て廻る、という名目であてどもなくギリシャ国内を彷徨い。
ほとんど唯一、国外の人間による当時の「ギリシャの民衆の肉声」を記録した本に(結果的に)なってしまったというのが大雑把なところかなぁと思うのですが。


ドイツの軍が来てもイギリスの援助がある、と信じ三年を待ち。
その後、やっと来た解放軍は最終的に(現地の実情に合ってないのは事実だと思う;)、ナチス・ドイツ軍と最後まで戦い抜いた存在と敵対するような体たらく。
アメリカの援助は名目だけは聞こえるものの、具体的な恩恵として誰にも届かない。
けれどまあ土地の人はだいたい、なんでギリシャ人はこんなに酷くなってしまったかなぁ、とも嘆くのですよね、イギリスの間違いは間違いとして、アメリカの無力は無力として、そもそも自分たちを蹂躙しにやってきたドイツ兵に対しても、いざ戦争が終わり、捕虜となった時に虐待に走ってしまう身内を押し留める、確かに酷いことはされたけれど、状況が変わってしまった今、そんなことはしてはいけない、と告げるのですよね。
確かに秩序はないのかもしれないけれど、著者さんが悪意なく、真っ正直な気持ちで旅をしている間、ほとんど誰も彼に危害なんて与えなかったし、追い剥ぎもどきはいたけれど、それだってなんだか人間味は残っていた。
状況はややこしいし、土地を支配するのは土地それぞれの存在に等しく、私なんかが聞いたことのあるヴェニゼロスという人物は誰にとっても酷く遠い。要するに混沌しか描かれてないんですが、それがギリシャの現実だったのかなぁ、と思うのです。