「物語 近現代ギリシャの歴史−独立戦争からユーロ危機まで」村田奈々子

そもそもギリシャ人とはなんぞや、というのに近い問答はどこぞの中東辺りでも見た気はするのですが、少なくともここに出てくる「ギリシャ人」たちにオスマン帝国からの独立の頃に果たしてその自覚があったかというと疑わしく、彼らにあったのは“正教徒”という意識、ところがこのギリシャ正教会はオスマン帝国の庇護下にあり、まず一旦ビザンツ帝国の否定(オスマン帝国の支配下に入った時点)から始め。
しばらくしてやっぱり「古代ギリシャ」との連続性がないから、とビザンツ擁護に廻った、というこの時点でなにか不安がないでもないのですが。
だいたい、ビザンツ帝国ってあれだよね、ローマ人って自認識だったよね…。
続いてクローズアップされたのが言語でこれは実際に古典ギリシャ語の系譜であったものの、どうもそれでは物足りないと思われたらしく、人工的に古代語と現代語の折衷であるカレモヴァが作り出され長く公用化されていたそうなのですが。
これも民衆の使うディモティキとの乖離がだいぶ問題になっていたそうです。
それこそカレモヴァが使える人間にしか表舞台に立つチャンスがなかったのだとか(だからこそカレモヴァ擁護の層も扱ったようですが、それは民族意識じゃない;)。
とはいえ、ここに関しては古代ギリシャ語からの語彙が民衆語に汲み入れられるという一部なりとも良い結果は残ったようなのですがね。


列強の意思の元に独立し、かつてのギリシャ民族圏を取り戻すメガリ・イデアという思想に取り付かれ、大戦の中で真っ二つに国が割れ、長い内戦とやっと融和の後の民衆迎合政策による国内の借金漬け体制の始まり、という流れにため息しか出ません。
ヴェニゼロスやせめてカラマンリスがもう少し、とは思うんですが。