「世田谷代官が見た幕末の江戸 日記が語るもう一つの維新」安藤優一郎

世田谷代官が見た幕末の江戸  日記が語るもう一つの維新  角川SSC新書

世田谷代官が見た幕末の江戸 日記が語るもう一つの維新 角川SSC新書

新宿駅から歩ける範囲、渋谷区に住み、生活圏に世田谷区(歩いてると普通に越境)が含まれる土地に住んでいるんですが実際この本の中に出てくる地図にも載ってるんですよ、なんか。まあ残念ながら語られていた彦根藩世田谷領の支配地域ではないんですが。

正直、読んでいて素朴な価値観がわりとそのまんまだなー、と思いながら読んでました。

この地域、なんかなんとなく拘るものが古臭いんですけども、ひょっとしたら開発などの狭間になって、時代に取り残されてしまったのかなぁ、と考えると楽しいものがあります。

主君は井伊直弼などがいる井伊家で、実際、この本の主軸となった世田谷代官の妻、美佐の日記が始まって数年で暗殺されてしまい、跡を継ぐためにその死を伏せ、病気療養中にしたのだ、ということが、日記本文には記されていないものの(代官日記だったので公的文書に近い性質でした)、周囲の動きで記されていたりします。

正直、井伊直弼時代は、なんだろう、世田谷代官である大場家に対してもだいぶ無茶な命令があったりして、世代交代してからしばらくはそのまま続いていたんですが、少しずつ時代を経るに従って軟化してるように見えるんだよね。

(権力崩壊時期なので、無理を言っても通らない自覚があっただけかもしれませんが、大場家と井伊家が完全に主従の関係でなくなってからも付き合いが続いていたらしいところを見ると、かつてほどは酷くなかったんじゃないのかという気もします。)

 

で、その視点で考えると井伊直弼…実際強引な性格だったんだろうな、などとふと。

この本は夫を支える美佐が夫の急死を受けて甥を養子とし、代官職を継ぎ、幕末を経ての政治参加などになったという近代の姿までを説明して美佐の死で終わっているんですが。動乱を内側、権力と農民の間から見る試みはとても面白かったです、視点の違いだね。