「中世の鎌倉を語る」安西篤子・監修

正直鎌倉時代に関しての治世の評価に触れた本というのはあまり読んだことがなくて、これも昨今の中世再構築の一貫なのかな、と思いながら読んでいたんですが、よく考えたらこれと平行して読んでいた室町時代の本で他の武家政権よりも室町幕府が圧倒的に劣っていたって言われてたっけ、てことは鎌倉時代は評価されてるって認識してて良かったんですね、ちまちまと読んでるはずなのになんで記憶してなかったかなぁ?
ああ、世に戦と権力闘争のみを扱った本が多いからかも、確かに源氏がわずか数代で終わってしまったことや北条氏の執政政権にはあまり平穏な印象はないかも。
この本はわりと周辺事情から語られていることが多かったんですが、『平家物語』の中に嘘があること、もちろん物語ではあるものの源頼朝征夷大将軍の地位を受けた年代が明らかに違うとなるとさすがに恣意的だよね、という指摘ももっともで、そういう観点で読むべきということが語られていたんですが、そのつもりで読むと木曽義仲がいた時代や源義経を追う描写の中にも微妙に政治的な意図が含まれているのだとか。
そのテキストがどの地に伝わったものであるのか、どこで文字に収録されたものであるのかなども語られていたんですが、琵琶法師のいただろう土地、その役割り、そして他家にもあったろうけれど千葉氏のものしか残らなかったのではないかという推測も。
実際の史書の中身を扱うというのとはだいぶ一線を画した内容になってるような。

個人的に好きだったのは源実朝とその公家出身だった妻の話なんですが、この観点で見ると北条政子が別に苛烈な烈婦だったようには見えないな、というのが不思議。
どの人物どの観点で語られていてもわりと緩やかに話がつながっていくのが面白かったです、もうちょっとこういう観点での本読みたいなぁ。入門書にもなりそう。