「大久保利通と官僚機構」加来耕三

大久保利通西郷隆盛木戸孝允明治維新の三傑であって、大久保と西郷は薩摩藩の中で維新後の運命を別けた、というところを読むには悪い本ではなかったように思います。家を建てるのと家を壊すのは西郷、出来上がった家を形作り整備するのは大久保、という役割り分担も結構わかりやすい。
ただね木戸孝允やその他官僚に関しての描写が非常におざなりで、内務省の成り立ちについて触れられていたのでこの「官僚機構」というタイトルになったんでしょうが、それ以前の大蔵省や民部省(この機能を引き継いだのが内務省)が完全に省かれていた上に内務省のその後にも全く触れられてなかったんで、さすがにちょっと期待外れだったなぁ。
まあただ、内務省だけでも触れられてるだけ古い本としては珍しいんですけどね。
征韓論争の前の岩倉使節団の留守政権に関してももっといろんな政治案件があったし、ただまあ、西郷隆盛の去就についてはこのくらい簡略化していてちょうど良かったのかも。
あと良かったと思った人物評が徳川慶喜辺り、頭が良くて度胸もあるが粘りが足りない。
佐賀藩は尖がった人材が多かったという江藤新平評、土佐藩は幕末の動乱で一級の人物を失っていた、長州藩木戸孝允がちょっと頭が良すぎて人材が育たなかった、などなど。
細かいところだとどうだろうと思う部分もあるけど、大括りでは納得するんだよね。

ただ、大久保利通が政治の表舞台から引いたこととそのあとの復帰を「最初からの緻密な計画通り」と言われるとなんだかなぁ、とはちょっとw 最初のはそうだろうけどさ。
各地の反乱もコントロールしたんだ、とか、途中から予知能力が芽生えた設定になったのは残念でした。そういう徳川慶喜やそういう木戸孝之が結局政権を維持出来ず、人材を育てられず、専門家に任す大久保こそが傑出したと聞いたすぐあとだったのでなおさらね。