「ナポリの肖像−血と知の南イタリア」沢井繁男

一言で言ってしまえば古代ギリシャの植民都市・ネアポリスとしてスタートし、ローマ人がやってきてラテン都市(ローマ市民の一つ下、のちに同格に)とされ、アラブがやってくるわ、神聖ローマ皇帝、要するにドイツ系がのこのことやってくるわ。
という変遷を経て、だいたい7百年くらいをスペイン統治下で過ごし。
独立心旺盛なところがすっかり挫かれてしまった、とは言われているわけですが、なんかこう、微妙なところで疑問が残るというか、ピザを食べ、火山目当ての観光客が多く、治安の悪さに貢献しているのは紛れもなくこの都市の住人だよ、と誰もが認め。
シチリアほどマフィアだのなんだのという問題があるわけでもなく。
ある意味で世の効率主義にこれ以上なく(だって統治者がそう望んだんだもん、仕方ないよな、さすがに)(反乱はしたんだよ、フランス人は最終的に追い払ったよ!)、のうのうと逆らっている気もしないでもない世界有数の混血都市。
あ、ユダヤ人ものそのそとこの都市にいたそうですが。
うんまあ、正直それほど目立たないような気もしないでもない。


現在、この地を初めとする南イタリアの生活そのものが見直されているそうですが、まあ、見直されたところでそんなにありがたがってくれるような気すらせず。確かに血が流され続け、まるで現実から逃げるように大衆文化にばかり花が咲き。
逃げ続けて早千年はゆうにすぎ、通り過ぎた支配者たちの痕跡がどのような評価になろうともまるで気にすることもなくそれを残し、結果、幾重にも重なった街の様相を保ち、それがなんにも特別なことでもなんでもなく日常の一部でしかないならば。
観光客や悪評や無責任な褒め言葉もまた、彼らにとって大したことでもないのかな。