「書斎の死体」クリスティー文庫36/マープル2、アガサ・クリスティ

 

この話は多分ラストまで読み終わった時点でトリック等々には無理もないものの「たかがそれだけのためにそこまでしてしまうのか」(財産って意味じゃないんですよね、一人目はそういう意味ではわかるんだ、二人目を「あれ」だけで殺してしまうってのがさすがに…)という気持ちがどうしても晴れず、ある意味でこのトリックを簡単に見破ってしまうマープルさんってどれだけ他人の悪意に聡いんだろう、と思えなくもないんですが。
死体が放り込まれていた無関係の田舎のお屋敷のご夫婦のことはわかるんだよな。
奥さんは強気で好奇心が強くて、けばけばしくて派手な女の死体が自分たちの、なんの変哲もない書斎から見付かったという時点で名探偵の噂の名高いマープルさんを呼び寄せてしまい、その後死体の身元が発覚したらその関係者のホテルにマープルさんを連れて飛び出して行ってしまい、周囲をいささか呆れさせるものの。
でも、彼女が心配していたのは多分真面目だけが取り柄でウィットに富んだ会話も苦手な庭弄りが趣味な旦那さんが、田舎の無神経な噂に潰されないようにってことだけで。
そのために自分がいささか白い目で見られてもいいんだ、むしろそう見られてるほうが旦那さんへの目晦ましになるんだって胸張ってる部分で、だからマープルさんも協力するんだって下り。すごい善意なんだよね。

 

この話はわりとよくある、大富豪とその血のつながらない家族と、結婚と相続と、みたいなややこしい関係へと展開していくんですが、多分キーワードになるのは「なぜ少女は二人殺されたのか」という部分だけなんですよね。
確かに随所で悪意を見せていた彼女が、正直あそこまでするって、ちょっと信じたくなかったなぁ、好きとか嫌いとかじゃなくて、なんだかショックな終わり方だったな。